読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

スヌーザーが選んだ2010年度ベスト・アルバム10

RAM


2000年代の音楽シーンを席巻したディスコ・パンク、DFAは間違いなくその爆心地だった。2010年、DFAのオーナー、ジェームス・マーフィーのバンドLCDサウンドシステムが活動休止を発表した。彼らはディスコ・パンクと「北米インディ」という二つのムーブメントを横断していた数少ないアクトであり、時代に敗北したわけでは決してない。「潮時だった」、ジェームスは活動休止の理由について尋ねられそう答えた。ザ・フー、クラッシュ、ストーン・ローゼズ、オアシス。歴史を作った偉大なバンドが歯切れの悪い終幕を迎える姿をオーディエンスは何度も目撃してきた。数少ない有終の美を飾ったビートルズを倣うかのように、彼らはパーフェクトなラストアルバム、いや「ラストアルバムとしてパーフェクト」な『This Is Happening』を献上した。前作『Sound of Silver』に比べて、アルバムというフォーマットにより意識的に、メロディーは更にほろ苦く、何よりよく歌うようになった。夜明け前のダンスフロアのような心地よい疲労感とビタースウィートな空気が充満している。アルバムを締めくくる曲のタイトルは「HOME」。らしくないタイトルも歌詞も、いつになくド直球だ。

Home
Take me home


家に
僕を家に連れてかえって


If you're afraid of what you need
If you're afraid of what you need
Look around you, you're surrounded
It won't get any better


必要なものに怯えているなら
必要なものに怯えているなら
周りをごらん、必要なものに君は囲まれている
最高じゃないか

そして小さく「おやすみ」と呟いてジェームス・マーフィーは第一線から退場する。僕がいなくなっても君の周りには最高の音楽があるじゃないか、とでも言いたげな顔で。出来過ぎだし、ちょっと気障すぎる。夜が終わっても、音楽は鳴り止まない。誰かがまた呟いている。「何かが終わったら何かが始まるんだ」。


年が明けても「北米インディ」ブームの勢いはとどまるところを知らない。ヴァンパイア・ウィークエンドはセカンドアルバムとなる『Contra』でダーティー・プロジェクターズ『Bitte Orca』に負けじとでも言わんとばかりに果敢にリズムを探求し、アーケイド・ファイア『The Suburbs』で英米共にチャート1位を獲得し名実共にワールドクラスのバンドとなった。ドリーム・ポップ周辺でもビーチ・ハウス『Teen Dream』で更なる熱烈な支持を獲得し、ディアハンターはチルウェイブに感化されたような『Halcyon Digest』を産み落とし、深化を続けていった。エクスペリメンタルな宅録フォーク・ミュージシャンとしてカルト的な人気を博していたアリエル・ピンクが初のスタジオ制作アルバム『Before Today』を4ADからリリースし、本格的にムーブメントに合流したのもこの年だ。ヴィンテージな質感のこのアルバムに呼応するかのように、モーニング・ベンダーズがレトロサウンドをモダンに解釈したエヴァーグリーンな『Big Echo』をリリースしたかと思えば、スレイ・ベルズがトラッシーでハイパーな『Treats』を引っさげてデビューするなど、「北米インディー」は更に多彩になってゆく。


その一方、地下ではブリアル以降の「ポスト・ダブステップ」とカテゴライズされるシーンにおいて、ダブステップに新たな要素を折衷するという実験が日夜繰り返されてきた。2010年にもマウント・キンビーアンビエントを取り入れた『Crooks & Lovers』や、ダークスターのシンセ・ポップを取り入れた『North』といった刺激的な作品がポスト・ダブステップ界隈から次々とリリースされたが、それらの傑作も弱冠22歳のジェイムス・ブレイクが発表した『The Bells Sketch』/『CMYK』/『Klavierwerke』という3枚の11インチのインパクトの影に隠れてしまった印象は否めない。特にR&Bを接合した「CMYK」はお手本のようなポスト・ダブステップの名曲であり、10年代を代表するクラブ・アンセムとなったのは必然だったといえる。しかし、彼がシーン内で特別な存在となったのには同時期にYouTubeにアップされたフェイスト「Limit To Your Love」のカバーの衝撃に依るところが大きい。



ダブステップらしいビートやベースを残しつつフォーク・ミュージックに接近し、クラブ・カルチャーの範疇から大きく逸脱した「歌モノ」。決定的だった。翌年、彼はジョニ・ミッチェルの『Blue』をダブステップに接合した真の「ポスト・ダブステップ」となるアルバムに自らの名を冠し、新時代を代表するミュージシャンとして世界中から驚きをもって迎えられることになる。

隆盛を極めるインディー、互いに影響を及ぼし合うチルウェイブ/ドリーム・ポップ、エクレクティックな異種交配が繰り返されるアンダーグラウンド。どのシーンも新しい時代の幕開けにふさわしい賑わいをみせていた。しかし最も偉大な作品その何れでもない場所、メインストリームから放たれた。カニエ・ウェスト『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』。インディの世界とは桁違いのハリウッド並みの莫大な予算と、リアーナからボン・イヴェール、デビュー前のニッキー・ミナージュからベテランのエルトン・ジョンといった豪華絢爛なコネクションを注ぎ込み製作されたこの異形のアルバムはPitchforkの満点をはじめ、あらゆるメディアから極めて高い評価を得た。それまで4枚のアルバムをリリースし、いずれも商業的にもクオリティ的にも十分なプロップスを集めていた彼だが、では『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』というアルバムは何が特別だったというのだろう?テイラーとの一悶着など、公私の様々な問題でパンパンに肥大化したカニエの被害妄想がついに中身をぶちまけて破裂した。巨大な爆発は彼自身のパーソナリティや取り巻くスキャンダラスな状況だけでなく、文化的にも政治的にも「アメリカ」という帝国も丸ごと飲み込んだ。それは9.11以降の歴史を清算し、現実をドキュメントし、予言や予見に満ちた幻を描いた。過去/現在/未来そして人間の底無しのカルマを巡る美しく暗い捻れたファンタジーの推進力についてPitchforkはこう書いた。コントロールを失った不安定な精神の逡巡の瀬戸際で抗い全てのものを前進させる、ということ。そのパワーは10年代という新しいディケイドの扉を思いっきり強く蹴り開けた。大きな音が世界中に鳴り響いた。


スヌーザーが選んだ2010年度ベストアルバム10

10.No Age『Everything In Between』


9.Sleigh Bells『Treats』

Treats

Treats


8.Vampire Weekend『Contra』


7.Flying Lotus『Cosmogramma』

Cosmogramma

Cosmogramma


6.Charlotte Gainsbourg『IRM』


5.Ariel Pink's Haunted Grffiti『Before Today』

Before Today

Before Today


4.Deerhunter『Halcyon Digest』


3.Lcd Soundsystem『This Is Happening』

This Is Happening

This Is Happening

  • LCDサウンドシステム
  • ダンス
  • ¥1600


2.Kanye West『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』

My Beautiful Dark Twisted Fantasy

My Beautiful Dark Twisted Fantasy


1.The Morning Benders『Big Echo

Big Echo

Big Echo


スヌーザーが選んだ2010年度ベストシングル10

Apple Music Playlist

1.Janelle Monae「Tightrope」

2.The Streets「Trust Me」

3.Sleigh Bells「Tell ‘Em」

4.The Morning Benders「All Day Day Light」

5.Cee Lo Green「Fuck You」

6.Foals「Spanish Sahara」

7.Animal Collective「What Would I What? Sky」

8.髭「テキーラ!テキーラ!」

9.Girls「The Oh So Protective One」

10.Ash「Arcadia」