いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

sun araw,lord echo

最初聴いた時はピンとこないけれど、何回も修行に近いリスニングを経て良さが分かる音楽はたくさんある。もちろん結局良さが分からない音楽もたくさんあるだろうけど。何年か経って聞きなおして新しい発見をするのもリスナーとしての楽しみの一つだ。

 
belomancie/sum araw 2014 
Belomancie

Belomancie

 

 アメリカよりリリースされたアブストラクト・ダブプロジェクトの最新作。かれこれ10年近く色々な音楽を聴いてそれなりに蓄積もあると思っていたが、音楽の世界はまだまだ奥が深いようです。1曲目からツーーというシグナルから始まりそこに太いベースとギターが現れては消えていく。メロディらしいメロディやビートもなく淡々と続き、淡々と終わる。続く2曲目はシグナルに変わり教会音楽を思わせるオルガンのようなツーー音にのせてキーボードやベースが現れては消えていく、メロディは前曲と同じく特には存在しない。音響的には深くダブエフェクトがかけられており独特のくぐもった世界が広がっている。圧巻?なのは14分にも及ぶM7、シューシューシュー、と空気が漏れる音をバックにダビーなシンセとベースが遊んでいる、だけ。

 正直この音楽をどういうTPOで聞いたらいいのか見当もつかない。僕は朝と夜に聴いてみたのだけど、どちらにも特に合うわけじゃないし浮くわけでもない。彼らの音楽が前衛的なのか適当なのかすら僕には分からない。前衛的な音楽にありがちな緊張感は特になく、ゆるーく続いていく。特にピークタイムもドラマも持たずに淡々と。恐らく、今僕が言えるのは、sun arawがリプレゼントしているのはそういった空気なんだろう、多分。
 
不思議なもので何度か再生しているうちに、この脱力感に満ちたくぐもった不思議な魅力が少し分かったような気になるのだ。音楽は必ずしも誠実でメッセージ性があったり、快楽やリズムに溢れている必要もない。sun arawの音楽は淡々と「こことは違うどこか」を鳴らす。その場所はポップミュージックが魅せてくれる蠱惑的なものでなく、僕を誘うでも拒むでもない場所だ。そんな場所や音楽になんの意味があるかは分からないが、意味の分からない音楽だってたまにはいいじゃないか。
 
 ダブ繋がりで、お次はポップでハッピーなアルバムをひとつご紹介します。
 
melodies/lord echo 2012 
Melodies [解説付 / 国内盤] (WNCD004)

Melodies [解説付 / 国内盤] (WNCD004)

 

 ニュージーランドのblack seedsというレゲエバンドのギタリストによるソロプロジェクト。ダブやレゲエマナーに則りながらR&Bやソウルの要素を取り入れたグッド・バイブレーションな名盤!ダビーな音処理によりサウンドに奥行きを持たせとても涼しげに感じさせる。夏に流したら本当に体感温度が下がります。

 ソウルフルでR&B調なM3、宇宙的なダブ処理が遠くへトばしてくれるM7、車を飛ばして海へ向かうような開放感と一抹の寂しさが入り混じるM10、どれも夏にぴったり。そしてアルバムを締めくくるのはsister sledgeの永遠のソウルクラシック「thinking of you」のカバー。原曲の瑞々しさと切なさはそのままにlord echoならではの解釈と工夫が伝わるまさに理想的なカバーとなっている。

 
Lord Echo - Thinking of you - YouTube

廃盤となって手に入れにくい状況が続いていたが、最近再発されたみたい。この機会に是非。