beck,HERON
beckが2008年のmodern guiltから6年振りとなるニューアルバムをリリースした。
morning phase/beck 2014
このジャケットをみて彼が2002年にリリースしたsea changeを連想しない人はいないだろう。実際に当時のレコーディングスタッフが再集合して作成されたようだ。デビューからのヒップホップ、グランジ、フォーク、ファンクごちゃまぜのeclecticな態度が徐々に裏目に出るようになってきた3rdアルバムMidnite Vultures。そこからクラシックなフォークに回帰することで生まれたsea changeという傑作を聞いて誰もが彼の本質はシンガーソングライターであると認識したはずだ。
基本的にこのアルバムもsea change同様アコースティックでソングライティングを重視した作品となっている。ただ海の底を漂うような深いストリングスや疲弊した声によりどこかヘヴィな印象を残すsea changeに比べ、柔らかな鍵盤とソフトロック調の美しいアレンジが施されたmorning phaseは軽やかで明るい。「sunday sun」のような激サイケデリックな曲もなく、本当にシンプルなシンガーソングライター作品となっている。音の広がりがアンビエントミュージックを思わせる素晴らしい録音も特筆すべき点のひとつだ。
90年代の「革新的なbeck」というイメージはもはや完全に風化してしまった。だがそんなことどこ吹く風とでもいうように彼は飄々とギター片手に「ただいい曲」を携えて戻ってきた。
このアルバムはこんな風に終わる。
「夜は長い時間をかけて朝になった/思い出に取り残されて帰れないあなたを朝が迎えに来る」
そしてこんな風に始まる。
「朝目覚めて、嵐の中に愛しい光をみつけた/全部最初からやり直せないかな?この無防備な朝に」
このアルバムの穏やかさと豊かさにブリティッシュフォークバンドのHERONをふと思い出した。
HERON/HERON 1970
全編野外にてフィールドレコーディングされたこのアルバム。Donovanの影響を感じさせる繊細なメロディーとコーラス、そこに重なって聞こえてくる鳥たちのさえずりと風の音。革新的なものなど何ひとつないが、果たしてそんなもの本当に必要なのか?と思わせるほど満ち足りた風景がこの音楽の向こうには広がっている。