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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

may.e

レビュー

REMINDER/may.e 2014

まずは何を差し置いてもこの素晴らしいギターの響きについて書かなければならない。彼女の奏でるギターを聴くためにだけでも、今すぐこの作品をダウンロードすべきだ。(なんとname your price!)

1曲目の「HOURS」に耳を傾けてほしい。淡く曖昧な輪郭のボーカルや鍵盤と、弦の擦れや微かな振動まで聞こえてくる生々しいアコースティックギターの対比の鮮やかさに思わず息を呑むはずだ。まるで古いレコードに合わせてベッドの上でギターを弾いているかのような不思議なサウンドがリスナーに覚醒と催眠を同時に促してくる。

だから「ドリーミー」という形容詞はこの『REMINDER』という作品には相応しくない。このアルバムの捩れた音像を聴いて僕が思い出したのはboards of canadaだった。幻想的なウワモノにヒップホップを通過した肉体的なダイナミズムに満ちたビートの同居が彼らの音楽の魅力のひとつだ。一方でmay.eの音楽にboards of canadaに比較するとノスタルジアが希薄なのは、おそらく両者のウワモノ(メロディ)の方向性の違いだろう。松任谷由実を引き合いに出せるほどに洒脱な彼女のポップセンスは鮮やかに都市の風景や群像を切り取る。このアルバムは優れたシティポップアルバムとしても機能している。


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都市とベッドルームの狭間にあるパーソナルな空間が『REMINDER』にはパッケージされている。かつてフィッシュマンズ佐藤伸治は世界との距離について「窓は開けておくんだよ」と忠告した。このアルバムも同様だ。ドアをノックするのではなく、窓とカーテンをそっと開けて外の空気を迎えいれる。そんな世界と自己との間の良好な距離をmay.eはリスナーに提示しているかのようだ。彼女の音楽の清廉な佇まいは池澤夏樹の小説『スティル・ライフ』をふと思い出させた。

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

(池澤夏樹 著『スティル・ライフ』より)