夏の魔物
いま僕がいる沖縄では昨日から梅雨明けし、本格的な夏がやってきました。夏といえば、という作品は無数にありますがその中でも特に思い入れがあるのがこのレコード。正確にはレコードよりも、おまけの方。
初期のスピッツのアナログ盤にはオリジナル・コミックなる付録が付いています。南Q太、根本敬、しりあがり寿と豪華な執筆陣の若かりし頃の貴重な作品が読むことができます。
その中でも、スピッツのデビューアルバム『スピッツ』に収められたよしもとよしともの「夏の魔物」という作品は、このシリーズだけでなく、よしもとよしともという作家の「ディスコグラフィ」内でも屈指の作品だと僕は思っています。少なくとも「青い車」「よいこの街角」「ライディーン」という名作群に勝るとも劣らない作品だと。ひどく痛々しくフラジャイルなのに、自意識過剰的な暑苦しさとは無縁の冷たくヒリヒリした質感は彼がアシスタントを務めていた岡崎京子に通じるものがあります。熱いナイフで彫った氷の彫刻のような、瑞々しい傑作です。
元気かい?今は夏だ。
外ではセミがひっきりなしに鳴いている。
ついさっき夕立に降られた。
僕はびしょ濡れになったけどすごく気分がいい。
ところで君に質問がある。
強い心とは何だろう?
君はそれを得ることができただろうか?
君も今では許せなかったことを許すようになり大切にしていた多くのものを失ってしまった。
しかしそれ以上の狡猾さを持って心の痛みに戸惑うことなく生きる方法を君は知っている。
君は僕を笑うだろうか?
それとも甘い感傷とともに若い日々をうらやましく思うのだろうか。
僕は今日彼女とキスをした。
そこで思い立ってこの手紙を書いている。
未来の僕へ。