いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

How To Dress Well 『What Is This Heart?』

まずはHow To Dress WellことTom Krellの2010年と2012年にリリースした2枚のアルバムについて振り返ろう。

Love Remains 2010

Love Remains

Love Remains

ドイツはケルンの学生だった彼が自身のブログからフリーダウンロードで音源を発表してから、僅か数ヶ月で当時Youth Lagoonなどが所属していたLefse Recordsからこのファーストアルバムをリリースした。(恐らく)意図的な音割れを施しローファイな質感をもったドローン/アンビエント/チルウェイブなトラック+幾重に重ねられたファルセットボーカルという組み合わせは現行のインディーR&Bの雛形にも感じられる。しかし、ここではまだトム・クレルというシンガーの姿は朧げで、あくまで彼の歌はサウンドの1要素という印象だ。


Total Loss 2012

Total Loss

Total Loss

ファーストアルバムから2年後に発表されたこの作品では、ローファイなサウンドはグッと洗練されてアンビエント色を強め、そして何より美しいメロディを持った曲がアルバムの多くを占めている。特に「Running Back」や「& It Was U」におけるトラックや歌唱はR&Bのそれである。だが、不思議なことにトム・クレルがどれだけ美しいファルセットを披露し、讃美歌のような荘厳な歌唱をしても決して彼のボーカルがエモーショナルに訴えることはなく、どこか「着飾って」いる印象を受ける。そして勿論、だからこその冷たさや不気味さがこのアルバムを素晴らしいものにしている。


そして先日、またも2年ぶりに最新作『What Is This Heart?』がリリースされた。

What Is This Heart? 2014
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結論から言ってしまうなら、このアルバムはジャケットの通りトム・クレルという一人の表現者/シンガーの極めてパーソナルで正直で、かつソング・オリエンティッドな作品である。ファーストからセカンドへの変化を更にドラスティックに推し進めたという点から予想通りとも言えるのかもしれないが、それでも冒頭の「2 Years on」には面喰らった。「2年後」というメタ的なタイトル、かつての深い霧のようなリヴァーブは無くはっきりとした輪郭をもった弾き語りに近いトラック、そして何より赤裸々なリリックとボーカルに。

このアルバムを象徴するだろう華やかでユーフォリック(!)な「Repeat Pleasure」の言葉は彼の決意表明のように感動的に響く。


And now I KNOW!
Even when we get what we wanted
This heart's break will never stop longing
PLEASURE repeats under no name
Even broken, my heart will go on!!

そして僕は気付いた!
たとえ望んだものを手に入れようと、この心の歪は繰り返す歓喜を求めることを止めやしないということを。
たとえ壊れても、僕の心は続くということを!

彼は明らかに困惑している、かつてないハイで幸せな状況に。その愛おしい困惑はかつて、カート・コバーンが結婚という慣れない幸せへの戸惑いを歌にした「All Apologies」を思い出させた。

「上手な着飾り方」というアイロニカルな名を名乗り、『愛は残る』というタイトルのアイロニカルな作品でデビューしたトム・クレルは、ここにきて大きな変節を迎えている。このアルバムに冠された『この心はなに?』という戸惑いに嘘はなく、「上手な着飾り方」という自身の名がアイロニーからとうとう嘘に変わった。その軌跡は本当に感動的に僕には映った。


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