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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

Mark Barrott『Sketches from an Island』

レビュー

Mark Barrottのこのアルバム、とにかくとにかく兎に角、素晴らしいんです。バレアリックの新たな名盤の誕生です。

Sketches from an Island/Mark Barrott 2014

イングランド出身のMark Barrottがイビザ島に移住し、届けてくれた『島からのスケッチ』。そのタイトルとジャケット通り、鳥の鳴き声、波の音、風に揺れる木々の音、といったアーシーな自然音がふんだんにサンプリングされたサウンドは、一言、ただただ心地よいのです。涼しげで微かにダンスフィーリングを帯びたビートもチルアウトするにピッタリ。ビートレスやダウンテンポアンビエントでもいいんですが、ハッピーで緩やかなビートでチルしたい!と思っていたところのど真ん中にきた作品。この夏にサマーブリージングなこのアルバムを聴かない理由なんて、ひとつもありません。マストバイ。


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バレアリックというジャンルは「(イビザ島も属する)バレアリス諸島のDJがかけるような音楽」という、まあ非常に曖昧なジャンルであります。多くの人がイビザ島/バレアリックというと、ビーチで鳴らされている華やかでチャラいダンスミュージックを連想しますが、あくまでそれは一側面にすぎません。(NMB48の新曲もそんなイメージを反映してるのかもしれません、名曲)しかし、Mark Barrottのこのアルバムは広くシェアされたその一面に特化せずとも、誰もがバレアリックと呼べる、呼びたくなる数少ない作品です。(だってRAのレビューのスタイルの欄がBalearicなんて初めて見たよ!)


80年代、イビザ島の地元DJたちはイギリスのアシッドハウスを輸入しロック、ソウル、レゲエなどと共にクラブでプレイしていました。それらはバレアリック・スタイルと呼ばれ、後にイギリスに逆輸入される形で所謂「セカンド・オブ・サマーラブ」という巨大なムーブメントが産まれ、同時にバレアリックというジャンルが産まれました。そこらあたりの詳しい説明はこの素晴らしいエントリーを読んでいただけたらと思います。つまるところ、バレアリックとはスタイルではなくて、イビザ島のエクレクティックでヘヴンリーな精神性であると言えます。


名コンピ『Cafe Del Mar』シリーズを筆頭として、日本では「イビザ系」と称されるラウンジ/チルアウトのジャンルがあります。それらの多くはイージーリスニングとして消費され、お世辞にも音楽的に高い評価を得ているとは言えません。観光地化され本来的な魅力を失い、ビッグDJによるトランス主体の下品なビッグパーティが連発し、そこにおあつらえ向きなリラックスを提供する「イビザ系」はバレアリックの成れの果て、亡霊とも呼べるのかもしれません。


しかし、Mark Barrottはこの『Sketches from an Island』という傑作をもって「イビザ系」をバレアリックの亡霊から、正当で現代的なバレアリック・スタイルとしてアップデートし蘇生させました。この日本語インタビューによると、彼はイビザ島の美しい自然と静かな環境にインスピレーションを受けたようです。前述したようにバレアリックがイビザの精神を指すジャンルと定義するならば、やはりこのアルバムほどバレアリックなアルバムはそうはないでしょう。


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賑やかで騒々しいビートが遠くビーチから聞こえてくる場所で送る、緑や鳥たちといった豊かな自然に囲まれた瞑想的な生活。つまりは、ダンスミュージックの遠い残響とメディテーションなチルアウトミュージックの融合。それが現代に生まれ変わった、新しいバレアリック・スタイルなのかもしれません。