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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

Bleachers 『Strange Desire』

レビュー

We Are Young/Fun. 2012

アメリカならともかく、この日本でFun.というバンドを覚えている人ってどれくらいいるんだろう。もしかしたら僕が知らないだけで今でも熱心に愛されているのかもしれないけど、とにかく僕は完全に失念していた。ジャネール・モアイを召喚し1000万枚を超える大ヒットとなりグラミー賞も獲得した「We Are Young」は今聞いても最高のポップソングだけれど、この曲が収録されて同じく世界中で大ヒットしたアルバム『Some Nights』はどうも大味で大仰でなんだかなー、と距離を感じて以来久々に彼らを思い出した。Fun.のメガネのギタリスト、ジャック・アントノフ a.k.a Bleachersのこの素晴らしいデビューアルバムを聴いて。


Strange Desire/Bleachers 2014
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The 1975を連想させる激キャッチーな楽曲が並んだこの作品は、誰もが1度聴いたらすぐに夢中になるだろう最高のポップソング集だ。だが昨年のThe 1975のデビューアルバムがありあまる情熱と野心が故にムラがあり長大なアルバムになってしまった(そしてだからこそたまらなく魅力的だった)のに対し、世界的なヒットを果たしたバンドのギタリストだけあり全11曲39分という理想的なコンパクトさに纏めてきた。やっぱり流石にキャリアが違うね。無駄に欲がないというか、とにかく佇まいに余裕が感じられる。全ての曲がたまらなくポップで、つまり要は本当に本当に本当に最高のアルバムを届けてくれた。間違いなく2014年の決定的なアルバムの一枚になるはずだ。いや、なってくれ。

この記事を書くにあたり何曲かピックアップして紹介しようと思ったのだけど、どれも最高だし流れも汲めるしということで全曲取り上げることにした。このアルバムに通底するフィーリングは「若い時は夢を追って成功もしたけど、もう疲れたよ」という少しネガティブなものだと僕は思う。しかし、かといって閉塞感は無く、前述したようにその厭世が余裕となり寧ろ軽やかな印象を与える。


1.Wild Heart

神々しいイントロにソウルフルなボーカルが乗り、分厚いシンセサウンドに支えられたサビ部分に雪崩れ込む瞬間、暗いライブハウスではなくもっと開けたフィールドで鳴らされシェアされるべきバンドであると確信した。完璧なオープニングトラック。「どのみち僕は君の野心を見つけなきゃ」というリリックの「君」はかつての自分を指してるのか?

2.Roller coaster

とりあえずアルバムからまず最初に一曲聴くなら絶対にこの曲を!チルウェイブっぽいイントロから一気にアクセルを踏み込んで最後まで突っ走る、あっという間で至福の3分間。キラキラしたサビもいいけど、0:40頃のメロディも最高にドキドキする。

3.Shadow

シャッフルするギターとマイケルっぽいメロディ。煌びやかな冒頭2曲と比べると若干地味で大人しくて、ぶっちゃけ個人的に捨て曲に近いけど、アルバム通して聴くといいアクセントになってるんだわ、ホント緩急が上手いね。

4.I Wanna Get Better

デビューシングル。ご機嫌なイントロからMIKAにも比類する陽性なヴァイブを振り撒きまくって、勇敢に進んでゆく。そんなウキウキするサウンドに対して「友達がぶっ飛んでたり、地下鉄で女の子のケツを追いかけ回してる間、僕はこの愛のせいで自分を見失ってた」「君の顔を見るまで、自分が寂しいなんて気づかなかったよ」「マシになりたい!」なんて情けないリリックもいい。顔だけでなくてメンタリティもWeezerのマット・シャープに似てるのね。やっぱりこれがベストトラック!

5.Wake me

前曲から一転、メランコリックで浮遊感のあるギターから始まるメロウな一曲。流石ギタリストだけあって色々な表情のギターを聞かせてくれる。徐々に盛り上がり爆発し、そしてしなしなと萎んでゆく構成も好き。

6.Reckless love

「I Wanna Get Better」でもいい味出してたちょっと聖歌隊チックな男性コーラスが大好きだからこの曲も大好き。深い悲しみを讃えたメロディ、だけれど大仰になりすぎずに飽くまでポップで軽やか。そしてだからこそ悲しみにリアリティが宿る。

7.Take Me Away

繋がりはよく分からないけど、Grimesをゲストに招いたこれまた名曲。彼女の神聖なボーカルと柔らかい四つ打ち、そこに物憂げなジャックのボーカルが重なり深く深く沈みこんでゆく。コンパクトさも魅力なこのアルバムだけど、この曲だけはもうちょっとだけ長く聞きたかった。

8.Like A River Runs

暗めの曲が続いたしちょっち明るめの曲でもいれとくか!って感じがするアッパーな8曲目。なんだかU2っぽいし、フェスとかで大人数で聞くと気持ちいいだろうね。派手だけど、ある意味箸休め的な曲。

9.You're Still A Mystery

Roller coaster」以来のキラキラしたサウンドをもったアルバムの中でもひときわキャッチーなシンセポップ。恐らくは神様か恋人に向けられた「多分、理解する必要はないんだ。どうしてあなたの愛がそんなに謎めいているかなんて」なんてリリックも最高じゃないですか。

10.I'm Ready To Move On / Wild Heart (Reprise)

アメリカで売れたら色んな繋がりが出来るのだなあ、と驚かずにはいられないまさか(?)のfeaturing. オノ・ヨーコ!あのヨーコさんがスタジオで大量のクリスマスクッキーをぼりぼり食ってて死んだらどうしようって心配した、なんていうエピソードも最高ですね。シームレスにオープニングトラックのリプライズに繋がれ、そしてアルバムは最終曲を迎える。

11.Who I Want You To Love

「僕が君に愛してほしい人」なんて泣けるタイトルをもったクロージングトラック。メロディの美しさもさることながら疲労感が滲み出たリリックがまたいい。胸にジーンとくる。


I will love what you want me to love
I will bleed when you want me to bleed
But I don't want to know too much of anything
Because it all hurts me

君の愛してほしい人を僕は愛そう
君が血を流してほしい時に僕は血を流そう
だけど僕は何事についても多くを知りたくないんだ
だってそれは僕を痛めつけるからね

世界的な大成功を成し遂げたかつての自分の野心を『奇妙な欲望』と名付け、すっかりその情熱が冷めてしまったことを隠そうともしない。そしてそんな自分こそが「君に愛してほしい人」であると歌うこの曲ほど、アルバムを締めくくるに相応しい曲は無いだろう。


このアルバムはポップソングの力を借りて為されるジャック・アントノフという一人のミュージシャンの赤裸々な告白だ。かつて「We Are Young」というヒットソングを飛ばした人気バンドのギタリストが、肩書きや過去や名声といった呪縛から逃れて、老いや諦めもひっくるめてもう一度やり直すために彼は自身に「漂白剤」という名を付けたんじゃないかな。

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