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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

Spoon 『They Want My Soul』

Spoonのニューアルバムが大変なことになっている。前作の『Tranceference』はもちろん、最高傑作と名高い前々作『Ga Ga Ga Ga Ga』すら凌駕する傑作だなんて想像できるかい?凌駕する、ってのはちょっと言い過ぎにしても、彼らの輝かしいディスコグラフィ内でも一二を争うほどの傑作なのは間違いない。モダンであること。オーセンティックであること。それら矛盾する2つの要素がこのアルバムでは同居して手を取り合っている。その奇妙な佇まいに、僕は13年前のStrokesのデビューアルバムを思い出した。

They Want My Soul/Spoon 2014
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基本的には今作もジョン・レノンルー・リードがソングライティングの土台としてあって、そこにクラウトロックやポストパンクのミニマリズムやサイケデリアの要素を加えて、音をまりんやコーネリアスがするみたく偏執狂的に研ぎ澄ませる、という前作の方法論を踏襲している。とはいえサインマガジンのこの記事で言及されているように、音と音との間を活かした『Tranceference』に比較すると、今作のプロダクションは随分とラフな印象を与える。そして、きっとだからこそ『They Want My Soul』は粗野でセクシーで最高にロックンロールを感じさせるアルバムになっているんだろう。

オープニング・トラック「Rent I Pay」。イントロ。ソリッドなドラムにギターが重なり、リズムが跳ねてベースとボーカルが入ってくる瞬間の「ロックバンド」感といったら!何かが始まる予感はきっとこんな感じでこちらにぶつかってくる。

続く「Inside Out」。この曲もう大好き。無機的で潔癖な演奏に乗せられたダニエルの黒っぽくセクシーなボーカルは、真っ白なシャツについた染みのように鮮やかで心を掴んで離さない。メランコリックで官能的なメロディも秀逸。ベストトラックその1。

「Rainy Taxi」。サスペンス映画のような不穏さ、切羽詰まったボーカルと唐突に挿入されるピアノの不協和音がそれに拍車をかける。ギターの掠れた音処理が最高。

「Do You」。はい最高。もう文句なし。ベストトラックその2。いいメロディといい演奏といいボーカルの三拍子が揃っていて、ほんの少しサイケデリック。つまりは『Rubber Soul』の頃のビートルズみたいに完璧な一曲。

「Knock Knock Knock」。ストリングスの使い方も印象的だけど、それ以上にギターの響きの良さが際立つ。特に4:10頃の閃光のようなギターノイズはまるでFenneszのような神々しい美しさを放っている。

「Outlier」。蠢くグルーヴ。徐々に高みに昇りつめていく興奮。アルバム中、最もダンサンブルなトラック。The Musicのセカンドアルバムを連想してみたり。

タイトルトラック「They Want My Soul」。ベストトラックその3。ドタバタしたドラムに導かれるソウルフルな3分間ポップス。終盤の左右に振り分けられたギターが最高にエキサイティング!音もさる事ながら歌詞がね、またいいんだ。

小賢しいキツネも/ガキも/ビッチも/俺の魂を欲しがる/あいつらは俺が欲しいものを何もよこさない/知っている/あいつらが欲しいのは俺の魂

決して失われることのない尊厳と誇り。不遇の時代を経て、インディーロックの雄となった彼らだからこそリリックが一層染みる。Pitchforkのレビューの締めがかっこよかったからついでに引用。

カート・コバーンが死んで以降、消えては現れた数千のバンドが浴びせられたのと同様の的外れな批判をこの作品も受けるのだろう。ダニエルとジムはカートの自殺の数ヶ月前にSpoonを結成した。彼らは燃え尽きてはいないし。錆びついてもいない。

生き延びるという事は恥ずべきこと。カート・コバーンの馬鹿野郎のせいでそんな風に刷り込まれてしまった。でも、錆びつかずにその魂を燃やし続ける方法をSpoonは知っている。ダニエルの「They Want My Soul!」というシャウトは、そのまま「この魂は俺のものだ」と響いてくる。

「I Just Don't Understand」。ドスの効いた声で歌われる、ブルージーで黒いフィーリングを持った短尺なナンバー。

「Let Me Be Mine」。天上から降り注ぐシンセがバンドサウンドと違和感なく融合している。ラフだけど洗練されている、という今回のアルバムのカラーがいちばんよく表れている曲じゃないかな。ベストトラックその4。

そしてそのカラーを突き詰めたクロージングトラック「New York Kiss」。ベストトラックその5。摩天楼のような煌びやかさと、モノトーンな洗練と、ロックバンドの粗野な生命力。それらが憎たらしいほど完璧に極上のポップソングに同居している。


最高のロックンロールについてのイメージは人それぞれあるだろう。生きている時代によって変化するものかもしれない。2014年に生きる僕の場合はこうだ。

黒いリズムとミニマルなサウンドと幽かなサイケデリア。真っ白く無機的で冷ややかなスタジオ。そんな場所で演奏されているはずなのに、どこからか海の匂いがしている。

そんなイメージ。要は単にBeatlesのホワイト・アルバムのイメージなんだけど。他にもたとえばLa'sの『BBC in Session』とか、Strokesの『Is This It』とか。そしてこのSpoonの『They Want My Soul』もそのイメージにピッタリと当てはまる。ジャケットの写真のように蒼白く透明なアンビエンスとバンドサウンドの猥雑な肉体性の同居。汗ひとつかいていないのに、ドクドクと脈打つ鼓動。夜の街と雨の匂い。そして、暑苦しさとは無縁の熱いソウル。誰もがそれを羨み奪おうとするほどに、その魂は妖しく挑発的な光を放っている。クール。

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