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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

Endless Summer

夏が終わる。

夕暮れ時。長く伸びる給水塔の影。黴臭い市民プールの帰り道。誰もいない砂浜。バッグから零れ落ちたビーチの砂。そんな夏のぬけがらたちが、まるで亡霊のように僕たちに呪いをかける。終わらない夏休み。8月32日へ。そして気付いたら僕らは海に。ここがどこだかわからなければ、帰り道もわからない。遠くから汽笛が聴こえるけれど、船の姿はどこにも見えない。頭上でカモメが笑っている。その空はひどく青い。

夏の終わりのヒリヒリとした感傷をなだめるような、そんなミュージックを。

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ラップトップで製作されたペットサウンズ、と称された「叙情的なノイズ」というエポックメイキングな傑作であり、その衝撃は13年経過した今でも有効だろう。タイトルトラックの波のように寄せては返すノイズの合間から聴こえてくるアコースティック・ギターの響きは、夏を円盤へと閉じ込める魔法のよう。「Made in Hong Kong」の微かな夏の予感から最終曲「Happy Audio」の果てしない余韻まで、すべての瞬間が瑞々しいリリシズムとセンチメントに満ちている。貝殻から聴こえてくる波の音のような、甘やかなノイズの海。溺れてしまえば、そこは終わりなき夏の中だ。

同時期のライブアルバム『live in Japan』も聴き逃せない。カオティックに解体され再構築されたこのライブ盤が気に入ったなら、最新作『Becs』を手に取ってほしい。更にスケールを増したノイズがスコールのように降り注ぐ、クリスチャン・フェネスの構築美が貫かれた今年度屈指の傑作。

→「Static Kings」


  • Minutes Of Sleep/Francis Harris (2014)

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母親の死を受けて製作された、享楽やユニティとは遠く離れた場所で鳴る物悲しいハウス。ダンスという行為が巨大な悲しみから逃避するための幻想に過ぎないと自覚してるからこそ、このアルバムは胸を締め付かせながらも人を踊らせてしまう。ドローンな冒頭三曲から、本作のハイライトである「You Can Always Leave」へと昇ってゆくアルバム前半が特に素晴らしい。悲しみに立ちすくんでしまわずに、踊るために。

→「You Can Always Leave」


  • Tall Hours In The Glowstream/Cotton Jones (2010)

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アメリカの男女デュオが2010年に発表したセカンドアルバム。同年リリースされたThe Morning Bendersの『BIG ECHO』がビーチで青春を謳歌する若者への讃歌だったならば、こちらは対岸からその姿とその終焉をスケッチするだけのクルーエルサマーな傑作。心地よい疲労感と甘い厭世感が織りなすエスケーピズムは抗い難い魅力を放っている。

→「Somehow Keep It Going」


  • Weighing Souls with Sand/The Angelic Process (2007) RECOMMEND!!

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シューゲイズ/ドゥームメタル夫婦デュオの4枚目のアルバム。このアルバムをリリース数年後に夫であるK.Angylusは逝ってしまい、実質的なラストアルバムとなっている。「シューゲイズ/ドゥームメタル夫婦デュオ」と説明したが、砂嵐のようなギターノイズはシューゲイザーのような蒼くキラキラしたフィーリングは皆無で、行き詰まり感や自殺願望のようなやり場のないネガティブな感情をひたすらに加速させる。なのに曲はどれもキャッチーでわかりやすく、ドゥームメタルのような高い精神性や耽美的な美しさは希薄。要はだらしない。ダメ人間によるダメ人間のためのジャンクでスカムな音楽。だけど、それなのに、本当に本当に本当に、このアルバムはとんでもなく素晴らしい。ケラケラと笑いながら頭をピストルでぶち抜くような乾いたニヒリズム。世界は退屈だから、せめてぶっ飛んでいたいの。この夏が終わってしまうのなら、パーっと死んじゃおっか。笑いながら。

→「We All Die Laughing」


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日本が誇るインディー・ロックバンドの記念すべきファーストアルバム。どの楽曲も夏の広い青空に似た、晴れ晴れとした悲しみをたたえている。帰る場所を無くしたすべての人たちに捧げられた「テイクミーホーム」「マイカー炎上」などの名曲はもちろんのこと、浄化されるような美しさをもったラスト二曲に思わず涙する。ミニマルなサウンドスケープの緊張感と静けさは絶品。

→「マイカー炎上」


  • Things We Lost In The Fire/The Low (2001)

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アラン&ミミ夫妻を中心とした米スロウコアバンドの5thアルバム。スティーブ・アルビニがプロデュースを手掛けた退廃的な質感のサウンドに2人の賛美歌のようなコーラスが重なると、まるで世界が終わった後に残された歌のよう。『炎の中で私達が失ったもの』というタイトルは業火に焼き尽くされた煩悩を指すのだろうか。どこまでも豊かなバスドラムに導かれるオープニングトラックの美しさったらどうだ?「受け取った身代金の半分で/君は綺麗な向日葵を買った/君はそれを夜に投げた」。熱心なモルモン教信者が故の潔癖さに息が詰まりそうになるが、この敬虔な美しさに猛烈に惹かれる瞬間があるのも事実。禁欲的な夏に。

→「Sunflower」


  • Bad Timing/Jim O'rourke (1997)

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多作で知られるジム・オルークの作品の中では比較的見落とされがちな1枚。実験的なガスター・デル・ソル時代とポップなソロ最高傑作『ユリイカ』に挟まれた隠れた傑作。ブルースを基調としたミニマルなギターフレーズのループは、しかしクラウトロックのようなドラッギーな陶酔ではなく、ビールでほろ酔いしているようなレイドバックした心地よさとくすぐったい快感をリスナーにもたらす。エスケーピズムと呼ぶには小市民的だが、チルウェーヴと同様にインスタントな逃避が味わえる。愛聴盤。晩夏の夕暮れ時にぴったり。

→「There's Hell in Hello, But More in Goodbye」


  • Carry On/Bobby Caldwell (1982)

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激スウィートなAORの定番中の定番。いいもんはやっぱりいい。豊かで、饒舌で、オシャレで、肩に力が入りすぎずに余裕があって。「夢でみたよな大人」ってこんな感じ?でもなんか素敵すぎてちょっとムカつく、嘘くせー、とか思っちゃう。夏が終わっても穏やかな秋が来る、そりゃ良かった。大人になるってことは夏が終わることを恐れなくなるってことだ。そんなのヤダなあ。でもこのアルバムを聴くと、それも悪くないかなって。そんなの嘘っぱちだけどさ。ちなみに邦題はジャパンオンリーの「シーサイド・センチメンタル」。ダサっ!

→「All Of My Love」



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