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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

My 10 Favorite Nirvana Songs

極私的なニルヴァーナの10曲。なんで今更ニルヴァーナなのか?というと、昨晩『MTVアンプラグド』を聴いてその美しさに息を呑んだから、と極めて単純で個人的な理由でしかない。何にせよ、インターポールのポール・バンクスが「僕にとって唯一のロックスターはカート・コバーンだ。彼は本当に才能があって悲しい人なんだと思う」と言っていたように、多くの人にとってカート・コバーンという存在はいつだってスペシャルだ。

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僕がこのうお座の男に惹かれる最大の理由は彼の孕む、いや彼を切り裂いている矛盾にある。最愛の娘フランシスとのバスタイムを写したホームビデオでの彼の姿はハンサムで優しい父親で、その光景はまさに幸福な家庭のそれだ。しかし撮影するコートニーの視線がバスルームから洗面台に移動すると、そこにはドラッグ用と思わしき注射器が写る。その矛盾が同居するでなく、あまりに自然に彼を切り裂き、苦しめていた。

すごく誠実な意見や感情と、皮肉っぽい意見や感情のど真ん中で引き裂かれてる感じさ。俺は情熱的で、誠実でありたい。でも同時にバカ騒ぎで面白おかしくも過ごしたいんだ。

ニルヴァーナを「アパシー」世代の代表格として扱うことに異論はない。確かに恒常的な痛みが故の無感覚という側面もカート・コバーンというアイコンにはあるだろう。だが同時に彼は正直な激情家だし、根っからのパンクキッズでも、生粋のポップミュージックギークでもある。彼の特異性は、その純粋さと自身の首を締める誠実さにある。

自分だってみんなに嘘をつくの嫌だ。ただの一人も騙したくない。自分が考える最も重い罪とは、100%楽しいのだと嘘をつき、ふりをして、人を騙すこと。

彼は「俺たちはみんなかけがえのない存在」と信じながら「自分が嫌で死んじまいたい」と自棄していた。もちろんそのような二面性はアーティストに限らずまともな神経の持ち主なら誰しも少なからず持ち合わせている。しかし哀れなカート・コバーンのあまりに純粋な魂はその相反する感情にいくつもに切り裂かれてしまう。分裂することも、同居させることも出来ず、その裂け目から音楽を吐き出して、ニルヴァーナの音楽はハイとロウの間を行き来する。ともすれば単調になりがちな強弱法というフォーマットに則りながら、楽曲に宿るフィーリングの豊かさ/複雑さは彼の正直さ故だろう。「死にたい」という感情を「生きたい」に反転させるロックのダイナミズム(単純化)ではなく、それらは共にライフの一部であり等価であるという音楽的な態度は彼が偏愛したアンダーグラウンドミュージックからの精神的影響かもしれない。

僕は想像する。ショットガンで自分の頭を撃ち抜いた瞬間に彼は救われたのだろうかと。あまりに魅力的な矛盾を抱え、それを最大の罪であると断罪した彼は救われたのだろうかと。しかし、少なくとも彼は自殺なんて単純な解決方法をとるべきでは無かった。世界中の馬鹿どもが彼の断罪を「ロックスターの苦悩」なんてクリシェによって消費する口実を与えてしまった。「錆びつくよりも燃え尽きたい」だって?あなたなら錆びながら燃えるような、そんなはなれわざも出来たはずなのに。

僕は考える。僕は思い出す。チャーミングな引きつり笑顔を。パジャマ姿で結婚式を挙げた胃痛持ちで速読が得意な男を。「俺たちはみんな人生にファックされるんだ」って吐き捨てたミュージシャンを。それなのに貞操を守るために消えてしまった清廉な魂を。

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10.Breed

ドライブしまくりで耳に残るキャッチーなギターリフからはじまり、畳み掛けるようなコーラスへと雪崩れ込む。サビの締めの「She said!!」というシャウトの格好よさは異常。痺れる。カート・コバーンのベストボーカルワークのひとつ。まずは第一にとにかくいい曲を書くバンドだったのだ、ニルヴァーナは。


9.Come As You Are

「お前らしく来いよ/昔のように/俺が望むように/友のように/宿敵のように」。信頼と猜疑心の間で揺れながら、それでも彼は誓う「俺は銃は持ってないよ」。どちらかに振り切ってしまわぬように、タイトロープを渡るような緊張感が張った名曲。しかし彼は銃を持っていた。それは敵を撃つのではなく、彼自身を撃ち抜いてしまった。


8.Tourette's

タイトルはトゥーレット症候群という乱暴で猥雑な言葉を吐き散らす「汚言症」を引き起こす病気の名前から。その名の通りひたすら汚い言葉を連呼して吐き出し、彼らのディスコグラフィー内で最もプライマルな衝動を感じさせる、単純に死ぬほどかっこいいパンクナンバー。しかもそのボーカリストが世界最高の声の持ち主だときた。


7.You Know You're Right

地を這うようなサウンドからはじまり「Pain」という叫びで一気に絶頂へと達する、ある種のあざとさすら感じさせるウェルメイドなポップ・ナンバー。「君が正しいことは知っている」という執拗なリフレインに続く言葉はこうだ。「俺が全部悪いんだ」。


6.Heart Shaped Box

内視鏡。人体模型。ロボトミー手術。ライブでの手術着姿。『イン・ユーテロ』期のカートの「病」に対する尋常でないフェティシズムは何に起因するのだろう。原因不明の胃痛?産まれてくる娘の奇形を心配するが故?彼にとって肉体は精神と同じぐらい不可解でやっかいなものだったに違いない。「また新しい文句があるんだ/お前の貴重なアドバイスに俺は苦しんでばかり」といったリリックは肉体に対する恨み言とも取れる。同時に、その不可解さがために猛烈に惹かれてしまう構造は「お前が黒くなる前に/お前の癌を食ってあげれたら」という強烈なラインに表現されている。ヴァース/コーラス/ヴァースというフォーマットの爆発力を最大限発揮させた美しい曲。


5.Molly's Lips

『インセスティサイド』に収録されたヴァセリンズの代表曲のカバー。キュートな原曲に比べると、随分とパンキッシュな仕上がりになっている。「モーリーは言った/僕をどこかに連れていってくれると」という歌詞に象徴されるように、彼らには珍しく陽性のヴァイブに満ちたハッピーな楽曲。笑顔で幸福そうに演奏する三人の姿が目に浮かぶ。

余談。カートの死語出版された彼の日記に「TOP 50 by Nirvana」というリストを綴ったページがある。そのリストにはピクシーズやマッドハニーに混ざってヴァセリンズの名前が挙げられている。好きなアルバムのリストアップは誰しもやった事あるよね。カートもそんなありふれたロック・キッズの一人だった。

カート・コバーン『JOURNALS』

カート・コバーン『JOURNALS』


4.About A Girl

「ミシェル」や「ガール」といったビートルズのバラッドを彷彿とさせる初期の名曲。アンプラグドでの演奏がメロディーの美しさを際立たせる。なに一つ足すものも、引くものも必要無い、完璧で普遍的なポップ・ミュージック。


3.Smells Like Teen Spirit

自殺の直前のライブでのMCで「この曲は俺達の人生を、そしてシアトルを、台無しにした。そして多分、お前らも」と語った曰く付きの代表曲。ポップすぎるメロディーとイメージだけがひたすら拡散してゆく意味不明の歌詞。吐くほど聴き飽きたはずのイントロのギターフレーズ。最高の「Yeah!!」シャウト。気の利いた「Hello,How Low?」というブラックジョーク。しかし最高の瞬間は最後のヴァースで気怠そうに「Oh well,whatever,never mind」と呟かれる瞬間だ。まるでビデオでダルに踊るチアリーダー達のように、その励ましは空虚でやけっぱちなものだ。アイロニーの要素も強い。しかし、それでも僕は感動を禁じ得ない。虚ろな「気にすんな」は、それでも彼なりに精一杯の「It's Alright」だ。痛みを、苦痛を、猜疑心を、肯定する「YES」だ。


2.Dumb

「俺はあいつらとは違う/だけど真似することもできる/太陽は行ってしまった/だけど俺には光がある/日は暮れてしまった/だけど俺は楽しんでいる/俺は馬鹿なんだろうな/いや多分ただの幸せものなんだ」。果てない胃痛と自己嫌悪と自殺願望の波が止まり、ひと時のまどろみの中で自身の生を実感する。レディオヘッドの隠れた名曲「Lull」にも流れている、センシティブすぎる表現者の束の間の「凪」の時間。ここでの「あいつら」とは「You Know You're Right」における「You」であり、「俺が全部悪かったよ」と逆ギレした相手であり、そのまま「幸福」と言い換えて構わないだろう。


1.All Apologies

ニルヴァーナ史上最もハッピーな楽曲だろう。ウキウキするようなスタックス・ビートが聴ける初期のデモバージョンはまるでクリスマスソングのようだ。「希望と思いやりに溢れたがんばり家の女神」ことコートニー・ラブとの恋愛にあたり、彼は慣れない幸福という状況に戸惑い、混乱して「みんなゲイだ」なんて口走ってしまう。悪いのは全部みじめな自分。穏やかなチェロに導かれて美しいメロディを持つこの曲で、カート・コバーンは痛ましいくらいに様々な感情によって切り裂かれてれいる。2度目のコーラスに続く「Yeah!Yeah!Yeah!」というシャウト。これ程に不思議な叫びを僕は知らない。少なくとも、これは単純な高揚をリプレゼントするものではない。切り裂かれた彼の魂が一瞬の調和をはかり、ふとカート・コバーンの最もコアな部分がドロっと剥き出されたような、美しさ、所在無さ、チャーミングさ。「俺たちはみんなかけがえのない存在」というリフレインは祝福であり呪縛でもある。自分に言い聞かせているようで、疎外感も同時に浮き彫りにしてしまう。自分が幸福にそぐわないと知りながらも、必死に祝福し肯定しようとする姿は僕にはとても愛らしく感動的に映る。その努力が一瞬報われるような、素晴らしい瞬間がこの曲にはいくつもある。そしてそこにあるのは誰もが愛さずにはいられないニヒルだけど、とても魅力的な笑顔だ。


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