いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

BEST ALBUMs of 2014 (30→21)

そもそも僕がこのブログを始めた理由は、毎年趣味で作っていた年間ベストアルバムのリストを発表する場がほしいというものでした。年末になると世界中でたくさんのベストアルバムがポストされます。それらリストのおかげで数え切れないほどの素晴らしい音楽に出会えました。特に2010年以降リスナーが1年間に聴いてきた音楽の分母が徐々にばらばらになり、もはやチャートや雑誌などの単一の年間ベストが機能しなくなってからは、星の数ほどある個人ブログやTwitterでポストされるベストアルバムの方がよっぽどリアルで刺激的なものなりつつあります。そんな素敵なお祭りにようやく僕も参加できそうです。ぜひご活用ください。まずは30位から。どうぞ!


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30.Moodymann/Moodymann
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「不機嫌な男」による久々のCDリリース。ヴァイナルでのみリリースされていた近年の作品のような耽美的でミステリアスなムードではなく、このアルバムでは猥雑な熱気としぶとい生命力がキックとなり脈打っている。ハウスだけに留まらずR&B、ファンク、ヒップホップ、ジャズを陽気に横断する彼のDJはテクニック云々よりも単純にリスナーをアガらせて躍らせる。ムーディマンは今日もきっとレコードオタクのためじゃなく「ピープル」のためにどこかのクラブでプレイしている。デトロイトで暮らす人々がクソみたい毎日をサヴァイヴするために、夜な夜なクラブでアホみたいに酒を飲んでは汚いビッチに手を出して取り巻きにボコられる、そんな悲喜劇も目に浮かぶ無敵のパーティ・アルバム。

Lyk U Use 2


29.Sketches From An Island
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ダンスミュージックとアーシーなアンビエントミュージックが融合した最新型のバレアリック・サウンドハーモニー・コリン「スプリング・ブレイカーズ」を観てすっかりイビザはバキバキのEDM一色に染まってしまったかと思いきや、そんな馬鹿騒ぎから少し離れてこんなに豊かでチルな音楽が産まれる環境もまだ残っていた。やっぱり一生に一度は行きたい天国に一番近い島、イビザ島。パラダイスにようこそ。

Baby Come Home


28.DARK WEB/Giant Claw

インターネット的な音楽ってどんな音楽?というクエスチョンに対する現時点での最適解。無機的なグロテスクさと切り刻まれたサンプリングが織りなすフューチャー・R&B。大量に廃棄されたエロ本からお気に入りの写真を切り抜いてコラージュしたかのような気持ち悪さと不気味さ。人肌の温もりなどはここには一切ないが、フェティッシュの香りだけは強烈に漂っている。

DARK WEB 003


27.Lost In The Dream/War On Drugs
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海外のクリティックポールでは無双モードで大活躍の今作。シューゲイズサウンドアメリカーナという組み合わせは確かに画期的な発明。どの曲も長尺で通して聴いてると少しばかりダレてくるけれど、だだっ広くてどこまでも真っ直ぐに続くアメリカの道路を運転しながらこのアルバムを聴くときっともっともっと最高なんだろうな。誠実で純朴な青年たちが創り上げたノスタルジックかつエモーショナルな一枚。「かつてカート・ヴァイルが在籍していたバンド」なんて冠は彼らにはもう役不足だろう。揺蕩う波のようなギターワークが本当に素晴らしい。

Disappearing


26.ささやき/ミツメ
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苛立ったギターリフにこわばるビート。甘いメロディーは後退して前面に出てきたのは「うつろ」なフィーリング。豊かなローカリティや繋がりやレジスタンスを反映している東京インディー・シーンを尻目に、このアルバムは多くのフィッシュマンズ・フォロワーたちが模倣できなかった(しなかった)「虚しさ」にフォーカスを合わせた。だらだらと続く毎日、全くドラマチックじゃない失恋、汚れた海、寂れた公園、薄暗い団地。90年代が遠くに葬られようと煙草を咥えながら虚ろな目でそんな光景を眺めている若者は消えはしない。「誰もが前向きさや元気さを愛するわけじゃない」ってのはサトちゃんの言葉で、それはもう絶対に嘘じゃない。

ささやき


25.My Love Is Underground/V.A

90年代の埋れたハウスミュージックをディグり世に再び送り出している、世界一かっこいいレーベル名を持ったフランスの「My Love Is Underground Label」。そのリリース群の中でも選りすぐりのトラックのみを厳選してコンパイルしたLP3枚組。そのどれもがレコードショップの倉庫の隅で埃をかぶっていたとは思えない、瑞々しくクラシカルな美しさをたたえた楽曲ばかり。きっとこの世界には誰からも忘れられてひっそりと発見されることを待っているレコードが山のようにあって、たとえネットが発達しようとその宝物を見つけ出すのは音楽が大好きな人間の忍耐と執念と愛だ。そしてその結晶がこの素晴らしいコンピレーションだ。

Does of Paradise/Latin Dream


24.Talk To The Sea/Gigi Masin

イタリアン・アンビエントのカルトスター、ギギ・マシンの初期作や未発表曲などを収録したコンピレーション。アムステルダムに拠点を置く再発レーベル、Music From Memoriesからのリリース。思慮深く簡潔ながら、息を呑む途方もない美しさ。きっと一生モノ。再発だけど夜の海でよく聞いたし、どうしてもリストに加えたかったの。レアトラックを収録したコンピならネッド・ドヘニーの『Separate Oceans』も最高によかった。こちらは昼の海に。坂本慎太郎ファン(特にソロ)にはマスト。

Call Me


23.You're Gonna Miss It All/Modern Baseball
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いつから男の子のロックはイカ臭いギターロックになってしまったの。大切なのはバウンスしてロールすること。初期のグリーン・デイのアコースティックで跳ねるあの感じ。歌詞だってとてもいい。不良にもいい子にもなれずにブルーにこんがらがっている。だって男の子だから。「大丈夫/僕はうまくやれる/僕は助けなんて必要ない/僕は自分の未来について考えるのが大っ嫌いなんだ/そう/僕がしたいことは僕以外の皆に気を配ることなんだ」というリリックを持ったオープニングトラックは今年のベストトラックのひとつ。タイトルも最高だ。OK,余裕。

Fine,Great


22.Run The Jewels 2/Run The Jewels
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最初はEL-Pのトラックばかりに耳がいったが、何度も聴くにつれてキレッキレのキラー・マイクのラップこそがこのアルバムをイルで暴力的な傑作たらしめていると気付く。客演のザック・デ・ラ・ロッチャがやんちゃなガキに思えるほどに、そのラップには鬼気迫る迫力が備わり、同時に苦々しい現状認識が滲んでいる。トラックメイカーとラッパー、その両者の才能がぶつかり合い散る火花にヒップホップというアートフォームに対する深い敬意と愛情が感じられるところも最高にクール。

Oh,My Darling Don't Cry


21.Bermuda Waterfall/Sean Nicholas Savage
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初期の七尾旅人を連想させる小動物のうめき声のような個性的すぎるファルセット。そして歌われるテーマは倒錯した、それでいて真摯で今や失われてしまった愛について。2014年にはパヒューム・ジーニアスやハウ・トゥ・ドレス・ウェルもそれぞれパーソナルな素晴らしい作品をリリースしたが、それでもこの奇妙なSSWのあまりに赤裸々に零れ落ちてゆく表現に比較すると小奇麗に着飾っているように思えてしまう。AORやソフトロックのやらかい部分だけを繋ぎあわせたブルー・アイド・ソウルの傑作。アルバムに通底する湿っぽいサマーブリージングなムードもセンチメントを加速させ、リスナーの胸を掻き毟ってゆく。

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