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いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

秋に聴きたいセンチメンタル過剰な10曲+α

俺の10曲

みんな大好きオーケストラルくるりを代表する名曲「Jubilee」。あの曲でいちばん泣ける瞬間は、岸田繁が物憂げに「あぁ、さっきから風が冷たい」と呟く瞬間だと思うのですが、どうでしょう。同じく、みんな大好き中期フィッシュマンズを代表する名曲「感謝(驚)」。あの曲でいちばん泣ける瞬間は、佐藤伸治が感謝を込めて「夏休みが終わったみたいな顔した僕を、ただただ君はみてた」と驚く瞬間だと思うのですが、どうでしょう。


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夏の曲/冬の曲はもちろんのこと、春の曲という縛りでも簡単にリストアップできるし、iPodにそのようなプレイリストを作成している人も多いかと思います。ところが「秋の曲」となるとなかなか難しく、僕がパパッと思い出したのが先に挙げた2曲でした。共通するのは「取り返しがつかなくなってしまった」という喪失感と、同時にそれらが浄化されていくようなフィーリングです。秋という季節を「夏の終わりの後始末」としか認識していないような風流心の無い人間なので、秋に聴きたくなる曲は自ずと終わってゆく季節を弔うようなセンチメンタル過剰(かつ清らか)なものになりがちなのかもしれません。だから、例えばPerfume「マカロニ」とかは大好きだけどちょっと違う。むしろ彼女たちのレパートリーではこの曲なんかが秋っぽいと思うのです。

Perfume「Perfect Star Perfect Style」

(2006,『Perfume 〜Complete Best〜』収録)

I still love キミの言葉がまだはなれないの
あの日あの場所で凍りついた時間が
逢えないままどれくらいたったのかな
きっと手をのばしてももう届かない


ああキミの言葉がまだはなれないの
あの日あの場所で凍りついた時間が
逢えないままどれくらいたったのかな
きっと手をのばしてももう届かない


パーフェクトスター


では残り9曲、続けてどうぞ!年代順です。

・Colin Blunstone「I Don't Believe in Miracle」

(1972,『Ennismore』収録)

自身がフロントマンを務めたゾンビーズ解散後、1971年に発表した処女作『一年間』七尾旅人が「全哺乳類必聴」と絶賛した大名盤でありますが、翌年にも聴き逃すには余りに惜しいソフトロックの傑作『エニスモア』を献上しています。その『エニスモア』からシングルが切られたこの曲は、コリン・ブランストーンが優れたコンポーザーであると同時に希代のソウルシンガーであることも証明しています。とても穏やかで力強いのに今にも壊れてしまいそうな繊細な歌唱。「僕は奇跡なんて信じない」という言葉に滲むのは後悔と悲しみ、でも「天使の声」と称された彼の声と天上のコーラスワークはあらゆる負の感情を氷解させてゆきます。

I believe that somewhere there's someone
Who's gonna light the way when things go wrong
The bullet that shot me down came from your gun
The words that turned me round were from your song


But I don't believe in miracles
I don't believe in miracles
But I thought you might show your face
Or have the grace to tell me where you are


僕は信じている
うまくいかない時に道を照らしてくれるような誰かがどこかにいることを
僕を撃ち抜いた弾丸は君から放たれた
僕を変えてしまった言葉は君の歌から放たれた


だけど僕は奇跡なんか信じない
奇跡なんか信じないよ
だけど思ったんだ
君がもしかしたら顔をみせにきたり
何処にいるか教えてくれるかもって

・Bob Dylan 「Simple Twist of the Fate」

(1975,『Blood on the Tracks』収録)

「ノルウェイの森」と同様に「姿を消した女」をモチーフとしながら、娼婦と彼女を買う旅人を登場させることによってハードボイルドな味付けが施されたこの曲には、膨大なディランの楽曲の中でも一二を争う途方もなく美しいメロディーが与えられています。曲中の登場人物たちは運命に翻弄されながらも、殊更逆らったり悲しみに溺れることもなく、たった一言「これは運命のひとひねりなんだ」と呟き巨大な波に呑み込まれてゆきます。まるで砂漠のように渇ききったセンチメンタリズム。言葉はとても冷たいけれど、それを歌うディランの声とメロディーは何よりも優しくて、その戸惑ってしまうようはアンバランスさがとても秋に似合うと思うんです。

People tell me it's a sin
To know and feel too much within
I still believe she was my twin but I lost the ring
She was born in spring but I was born too late
Blame it on a simple twist of fate


心の中をあまりにも知り過ぎることは罪だと人は言う
僕と彼女は双子だとまだ信じているけど
僕は指輪を無くしてしまった
彼女は春に生まれたけど
僕は生まれたのが遅すぎた
それは運命のひとひねりのせいさ

・RC サクセション「うわの空」

(1976,『シングル・マン』収録)

忌野清志郎という天才は「宙ぶらりん」という感覚を表現するのが途轍もなく上手い人でした。音楽だけが自分と世界を接続しているという感覚をリプレゼントしたのが「トランジスタ・ラジオ」だとするなら、この「うわの空」はその唯一の接地点すらも失ってふわふわと風船のように漂う根無し草な実存を歌っているのではないでしょうか。ドラッギーとも受け取れる歌詞中で、「ぼく」は「君」に拘泥することも引き留めることもしようとせず、飛び立ってゆく姿をぼんやりと眺めているだけです。同じアルバムに収録された咽び泣くような歌唱が印象的な「ヒッピーに捧ぐ」に比べ、感傷的と呼ぶにはあまりに寒々しく冷徹なその視線には代わりに諦めと甘い喪失感が宿っています。少し曇った秋の空にこれほど似合う曲を僕は知りません。何かを喪ってしまったという実感だけが、痛みを伴わずに加速してゆきます。

君は空を飛んで
陽気な場所をみつけに
ぼくをおいて行けばいい
だけど空の上からじゃ 何もはっきり見えやしない
ぼくも空を飛んでみようか なんて

・The Clash「White Man in Hammersmith Palais」

(1978,『White Riot』収録)

秋になるとクラッシュを聴きたくなるのは僕だけなのでしょうか。『サンディニスタ!』なんて秋の夜長にじっくりと聴き込むにはぴったりだし、レゲエとロックンロールを基調としたご機嫌なサウンドとジョー・ストラマーの適度にエモーショナルな声が曇った気分も蹴っ飛ばしてくれる。要は寧ろ秋を忘却するためにクラッシュを必要としているのですが、少なくともこの歴史的名曲には少なからず秋感が漂っているように思うのです。この曲の歴史的/文化的な背景についてはクボケンさんの素晴らしい解説を読んでもらうとして、現実に打ちのめされてうわ言のように「俺は楽しんでいたいだけ」と繰り返すジョーの姿に僕は心打たれます。「I'm Not Down」でみせた勇ましさと「Train in Vain」でみせた情けなさの間で揺れ動く気持ちを歌ったこの曲は、どっちつかずで煮え切らない秋の気分に驚くほどマッチします。

I'm the all night drug-prowling wolf
Who looks so sick in the sun
I'm the white man in the Palais
Just lookin' for fun
I'm only Looking for fun
Oh please mister just leave me alone
I'm only looking for fun


俺は毎夜クスリを求めて彷徨う狼
俺は昼間はただの病人
俺はハマースミスパレーの白人
楽しんでいたいだけ
ねえ、だからお願い俺を放っておいて
楽しんでいたいだけ

The Specials「Ghost Town」

(1981,アルバム未収録)



陽気なスカバンドというイメージの強いスペシャルズですが、彼らがラストシングルとなった「ゴースト・タウン」はそのタイトル通り不穏な匂いが充満した異色のアンセムです。この曲がリリースされた1981年の6月から遡ること2ヶ月前、ブリクストンで発生した黒人青年の刺傷事件を巡る警察の対応に抗議した群衆と警官隊の衝突がありました。その事件を発端として7月にはとうとうイギリス中を巻き込んだ暴動へと発展、リヴァプールやロンドンも全市が戦場と化しました。まさにその期間、3週間に渡りイギリスのヒットチャート1位にあったのがスペシャルズのこの曲でした。かつてのピースフルで楽天的な空気が完全に失われてしまった街/ライブハウス/ダンスフロア。不気味で空虚なホーンの響きに、彼らの悲しみとまるで暴動を予見していたかのような不安が反映されています。唯一「ゴーストタウンになってしまう前の古き良き日々を覚えているかい?」と語りかけるパートだけが陽性のヴァイブスを放ちますが、それもすぐに不穏な空気に掻き消されてゆきます。在りし日の幸福な思い出がぶすぶすと燻っている様子がとても秋っぽいと思います。

Why must the youth fight against themselves?
Government leaving the youth on the shelf
This place, is coming like a ghost town
No job to be found in this country
Can't go on no more
The people getting angry
This town, is coming like a ghost town


どうして若者同士で争わなきゃならないんだ?
政府は若者を棚に上げてやがる
この場所はゴーストタウンになるぜ
この国では仕事なんかありゃしねえ
もう我慢できない
みんなブチ切れている
この街がゴーストタウンになっちまう

・スチャダラパー「Mr. オータム」

(1996,『偶然のアルバム』収録)

そのまんま。あまりにど直球ですが、数少ない秋ソングのクラシックであるこの曲はやはり外せないでしょう。メロウすぎるピアノループ(元ネタ知ってる方いたら教えてください、スライじゃないよね?)に乗せてラップされるのは感傷だけではなく、「自分はもしかしたら狂っているのかもしれない」というフィーリングです。「狂っている」とは少し大袈裟ですが、どうにも社会と噛み合わずに疎外されている感覚はブッダブラン「人間発電所」坂本慎太郎「まともがわからない」、吉田ヨウヘイgroup「間違ってほしくない」といった名曲たちにも通じるかもしれません。そういった漠然とした不安は秋が運んでくる冷たい空気にとてもしっくりと馴染みます。

筋金入りの季節マニア
日は傾きまた鮮やかな毎日
イチイチドキドキ一生過渡期
キラ目輝かせ行くぜマイメン
落ち葉横目にROCK THE BEAT PUT YOUR HAND
天然の機転 センチメンタルに次元CHANGE
言いたかないがオレは文字ずらで見りゃ
昼間からブラブラしてる自称スター気どり
みとり to the 赤経た葉!!のように
微妙にのんきに変化!!
日めくりめくり 季節は巡り
そしてアニはいつも大忙し

空気公団「夕暮れ電車に飛び乗れ」

(2001,『融』収録)



初期の代表作であり、日本のポップミュージック史上にその名をひっそりと刻む大名盤でもある彼女たちのセカンドアルバム『融』。そこからシングルカットされたこの曲は少々あざとさを感じさせるほど、聴く人の涙腺を鋭く刺激してゆきます。歌い出しの「君のことを思い出させる季節になりました」という独白から伝わってくるのは、既に傷が「癒えてしまった」ことに対するメタレベルの混乱ではないでしょうか。小沢健二の名曲「流れ星ビバップ」にあるこんな一節。

時は流れ傷は消えてゆく
それがイライラともどかしく
忘れてた誤ちが大人になり口を開ける時
流れ星探すことにしよう
もう子供じゃないならね

癒えたと思った傷口は、しかし、思いがけない瞬間にぱっくりと開いて血が流れ出します。すっかり分別のある大人になった「僕」は泣き叫んだり、隣にいる大切な人にぶつけたりすることはありません。それが正しくて、同時にどうしようもなく間違っていることを知っているこの曲は、ほんの少し子供のように取り乱すことへと「僕」を誘い出します。曲中では1度も為されない「夕暮れ電車に飛び乗れ」という命令が意味するのはそういうことではないでしょうか。血が止まらないのなら、涙を流して痛がっていいんだよと。

君はどこかで誰かときいているだろうか
ゆっくりと動き出す電車の音を
君は景色の中に残っているみたい
僕は誰かと優しい歌を歌ってる
次の駅で降りてみようか

・agraph「gray, even」

(2008,『a day, phases』収録)

電気グルーヴのエンジニアとしても活動している牛尾憲輔のソロプロジェクトであるagraph。夏になればフェネスの『Endless Summer』を聴くように、秋になればagraphの『a day, phases』を聴くのです。四つ打ちやダンスミュージックという枠に囚われない自由でリリカルなテクノ。レイハラカミを連想させますが、彼に比べるとagraphの音楽はスタイリッシュで良くも悪くも洗練されています。完全にコントロールされているのですが、かといって砂原良徳の作品程は強迫観念的でなく、程よい塩梅に仕上がっています。年中聴ける名盤だと思いつつ、センチメントが零れ落ちてくる冷んやりとした質感の電子音にはやはり秋の夕暮れが最も映えるように思います。どの曲も素晴らしいですが、まずはオープニングトラックである「gray, even」を聴いてみてください。どこか冷たい風が運んでくる秋の匂いがしませんか?


・ミツメ「取り憑かれて」

(2015,『めまい』収録)

ずっとこれが続くとは
とてもじゃないが思えなくて
日差しに溶けそうな声で尋ねた
いつも気にもしないでいたいのだけど
取り憑かれてしまったのなら、どうするの?


長い日々も終わるとは
頭のどこか知りながら
果てなく飛び出して一人歩いた
いつも気にもしないでいたいのだけど
取り憑かれてしまったのなら、どうするの?


ずっとこれが続くとは
とてもじゃないが思えなくて
日差しに 溶けそうな声で尋ねた
いつも気にもしないでいたいのだけど
取り憑かれてしまったのなら、どうするの?