いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

Best 50 Albums of 2015 (50→26)

2015年はヤバい。そんな言葉がTwitterやブログや音楽メディアで踊る毎日。Apple MusicやAWAも登場したこのご時世に、気付けば150枚近くCDを買い、更にはダウンロードやストリーミングを駆使しながら貪欲に音楽を吸収した。こんなのはスヌーザーのディスクガイドを買った2006年以来だ。国内外問わずに名盤が連発された1991年をリアルタイムで体験できた人たちを僕は羨ましく思ったのだけど、今度は僕らが「2015年を体験できたリスナー」として未来のキッズ達に嫉妬されるのかもしれない。


10年後の2025年にこの記事を読む君たちに伝えたい。死ぬほど楽しかったから、間に合わなかったことを死ぬほど悔いやがれ。なーんて。いつだって、どんな時だって、ポップ・ミュージックに「間に合わない」なんてことはない。一番馬鹿なのはディアンジェロのライブにもceroのライブにも行かなかったこの俺だ。現場だけは「いまここ」にしかないもんね。でも、再生ボタンを押せば僕たちはあらゆる時代のあらゆる音楽にアクセスできる。「いまここ」でありながらどこでもない場所。言い訳じゃないが、僕は現場よりもそちらの場所により強く惹かれる。ベッドルームでも教室でも通学路でも海に向かう車内でも。あらゆる場所で音楽が鳴り、時間軸が失われ、景色が一変する。そんな魔法、そんな驚き、そんな楽しさ。それらの存在を強く感じた一年間でした。


さて、それでは当ブログが選出した2015年の50枚です。まずは前半の25枚。仕方ないといえば仕方ないのですが、似たり寄ったりの面子が揃う上位に比べて、各々のテイストが強く反映されている下位の方がリストとしては有用だし、思わぬ掘り出しものがあったりして嬉しかったりする。そんな出会いがありましたらブロガー冥利に尽きるというものです。




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Grimes『Art Angels』

Pitchforkが近日中にアップするだろう『Art Angels』についてのレビューが、良くも悪くもこの作品に対するリアルタイムでの評価の尺度となるのはまず間違いないだろう。だからこそ、なんて言い方はあまりにPitchforkを神格化しすぎな気もするが、それまでに僕は僕なりにこの作品についての立ち位置を定めておきたいと思ったんだけど、困った。うまく書けそうにない。


Art Angels/Grimes
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Apple Music


セカオワってROCKバンドじゃなくてポップバンドだよね」という文脈での、つまりは老若男女の誰にも愛される親しみやすい安全な音楽を形容する際に使われる「ポップ」。そしてSign Magazine誌上にて田中宗一郎が定義した「ポップの可能性」という文脈での、つまりは常識や思い込みをひっくり返しカタストロフィックな体験をもたらす危険な音楽を形容する際に使われる「ポップ」。そんな両義的なポップの概念が『Art Angels』には同居している。アルバムに先行して発表された「Flesh Without Blood」にそれが顕著に現れている。



打ち込み+囁くようなボーカル、というスタイルの楽曲が多くを占めていた前作『Visions』から一変。バックではメタリックなドラムとギターリフが炸裂し、更にディーヴァよろしく熱唱するGrimes。この曲に限らず、自作自演の根っからのプロデューサー気質である彼女だからこその本作の引き出しの多さとサウンド・プロダクションの素晴らしさは特筆すべき点だ。アンダーグラウンドもメインストリームも、アウトサイダーアートも宗教画もオタク文化も、10年代も90年代も70年代も、あらゆる音楽や文化を並列に偏愛し、その対立を止揚してアウトプットしてしまう感性はまさにYouTube以降の才能に違いない。スーパーに陳列された色とりどりの不健康そうなケーキのようなパーフェクトなポップ・ソング。サイケデリックな原色ではなく、毒々しい人工着色料に彩られたカラフルさに『Art Angels』の世界は塗りつぶされている。


一方で、彼女の特異なビジュアル・イメージへのフェティシズムは殆ど変化していない。公式Tumblrにはアルバム収録曲それぞれに対するイラストレーションがアップされていて、どれも少しグロテスクかつストレンジな実に「Grimesらしい」ものばかりだ。


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これらのイラストやアートワークから伝わってくる「異形なもの」に対する異常な執着。そこに彼女の「ポップ・アイコン」に対するオブセッションを読み取ることは出来ないだろうか。ジギー・スターダスト、プリンス、マドンナ、ビョークブリトニー・スピアーズ、そしてマイケル・ジャクソン。そんな異形のポップ・アイコン達の煌びやかさの向こうに、歪なグロテスクさを感じ取ってしまうのは彼女だけではないだろう。『Visions』の内容とジャケットのアンバランスさについて僕は「不思議ちゃん」ぐらいにしか考えていなかった。しかし『Art Angels』というアルバムとその不気味なアートワークは相変わらずアンバランスだけど、決してアンビバレンスなものではない。そのどちらも「ポップ・アイコン」という存在に対する巨大な愛憎に満ちている。


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海外メディアのインタビューでは、彼女がLana Del RayやCharli XCXといった同時代のポップ・アイコン(候補)と同列に扱われることに苛立ちを覚えていたことが語られている。また彼女に対する「新たな女性像」というフェミニストからの期待については以下のように一蹴している。

“Feminism is not what motivated me to become a musician. The reason I have fucking armpit hair is… I don’t actually like it, aesthetically! I’m just too busy to deal with it. I am a working woman”


フェミニズムは私がミュージシャンになる動機ではないのよ。私が脇毛を生やしているのは、そう、別にこれが美しいなんてちゃんちゃら思ってないわ!単純に忙しいの!私は働いている女なのよ。


炎上発言を繰り返し、大衆が眉を顰めるような姿へと何度も変態しながら、音楽だけは急速にポップで求心力のあるものへと接近している、という分裂。彼女が愛する日本のオタク・カルチャーの言葉を使うのなら「ツンデレ」とでも言いたくなる、分かりやすくも根深い現行不一致。アルバムを締めくくる「Butterfly」のリプライズで彼女はこう言い放つ。

If you're looking for a dream girl
I'll never be your dream girl


もしあなたが夢の女の子なんかを探しているのなら
私はあなたの夢の女の子なんかに絶対なってあげない


『Art Angels』を聴くと「10年代のポップ・アイコン」という座に最も近くにいるのがGrimesであることは半ば力づくで理解させられてしまう。そのパワーの源となっているのは、皮肉にも彼女の抱えるポップ・アイコンに対する憎悪と嫌悪だ。「(ポップ)スター・システムとは大衆の不幸の写し鏡である」と言ったのは渋谷陽一だったかな?マイケル・ジャクソンを殺したのは本当にプロポフォールだったのだろうか?浜崎あゆみを追い詰めたのは他でもない「僕ら」じゃなかったっけ?Grimes、逃げろ。いや逃げてくれ。美しい君まで不気味な怪物になってしまう姿なんて、僕はみたくない。君はきっとレディー・ガガみたいに強かにはなれないだろう。だが、しかし、君は誰よりも無謀で勇敢だ。だって「Flesh Without Blood」で「Uncotrollable!!」と叫んでいる君は、まるで、コントロールを失うことさえ楽しんでいるように僕らの目には映る。