いまここでどこでもない

I can't give you all that you need ,but I'll give you all I can feel.

andymori

音楽にちょっとでも夢中になった経験があれば、期待を胸にワクワクしながら買ったレコードやCDに失望させられたことが何度かあるはずだ。

 
光/andymori 2012 
光

 

andymoriというバンドは僕にとって最後の思春期を捧げた特別なバンドだ。出会いはガラケーの荒い画質でみた彼らのスタジオライブ。同時期に見た神聖かまってちゃんの地上波初登場の動画にも衝撃を受けたけど、「1984」の衝撃はそれを軽く超えてしまった。

andymori「1984(ONLY SSTV EDITION)」 - YouTube

グルーヴィーなベース、絶妙なタイム感のドラム、飾り気のないギター、そして炸裂するファンファーレ。所謂ギターロックが席巻していた当時にリバティーンズを思わせるラフな音像と演奏はそれだけで異質だった。

 
ファンファーレと熱狂/andymori 2010

 ファンファーレと熱狂

ファンファーレと熱狂

 

 ただ異質というだけで特段新しさがあったわけではない。僕が惹かれたのはサウンド以上にどこまでもフラジャイルな小山田壮平の声だった。kurt cobainやcraig nicholls、conor oberst、真島昌利らと同じくどれだけ声を荒げて張り上げても崩れ落ちてしまいそうな声。そんな声で歌われる「16」や「オレンジトレイン」に僕はあっという間に心を奪われてしまった。

 「ファンファーレと熱狂」をリリース後にドラムの後藤大樹が脱退。新しいドラマー岡山健二が参加する。「ファンファーレと熱狂」を傑作たらしめていた切迫感と焦燥感は後藤のドラミングに依るところが大きかったことは、彼らの3rdアルバム「革命」を聴けばすぐに分かるだろう。
 
革命/andymori 2011 
革命

革命

 

 「革命」においては「ピース」や「ユートピア」に顕著なように感謝や喜びにフォーカスを当てた曲が多くみられる。その一方で「weapons of mass destruction」や「無までの30分」のような前作の延長線上の曲もある。サウンドとしては良くも悪くも力強い岡山のドラミングにより曲の安定感が増し、歌詞の内容やメロディーを含め前作よりも明るい印象を与えている。唯一、小山田壮平の声だけが明るさと繊細さの間で戸惑っている。まるで自分が書いた曲に驚いているかのような不思議なボーカル。陽性のサウンドと不安定な声が辛うじてバランスを保っているその危うさが、このアルバムを前2作を凌ぐandymori屈指の傑作へと押し上げている。そしてそれはバンドという形態だからこそなしえた奇跡だろう。アルバムを締めくくる「投げKISSをあげるよ」における小山田壮平の歌唱は彼の現時点でのベストボーカルだ。


 
そして、ここまで書けばもう分かるかもしれないが、続く4作目「光」においてはサウンドと声のズレは声がサウンド側に寄る形で解消されてしまい、andymoriの魔法は消えてしまう。もちろん彼らの陽の部分が存分に発揮された「クラブナイト」や素晴らしいメロディーとボーカルが堪能できるラブソングの「君はダイヤモンドの輝き」といった名曲も収録されている。しかしそこには僕が猛烈に憧れて嫉妬したバンドマジックはなく、良い曲を書く普通のロックバンドがいるだけだった。
 
 
 
このアルバム以降のandymori、というよりも小山田壮平の動向については皆がよく知るところだ。それについて僕は何も言えない。今はただ1日でも早く彼が心身共に回復することを祈っています。