MAGIC EYE,boards of canada
近年の音楽業界のトピックとして、アナログレコードの復権が挙げられる。フェティッシュとしてはCDよりも圧倒的にヴァイナルの方が魅力的だ。音楽を買うということが特殊性癖になった現在においてアナログが愛でられるのは当然だろう。
何よりレコードにはCDやデータで聴いてもピンとこなかった音楽をレコードで聴いたらもう全て分かってしまうという謎めいた魔法が宿っている。甲本ヒロトがOtis Reddingのライブ盤をCDで聴いても何にも感動できずに、自分の感性が失われたのかと困惑しながらレコードで同じアルバムを聴いたらちゃんと涙が流れて安心した、なんてエピソードもレコードの魔力を物語っている。
そんなレコードの再発見に前後するかのようにカセットテープもまた録音メディアとして再発見されている。違法ダウンロードやデータとして消費されることに対するレジスタンスの一面もあるだろう。カセットテープを聴いているとまるでそこに録音された音楽が自分だけのための音楽かのように錯覚してしまう。データ化されていない/(なかなか)できないが持ち運べるメディアというのは、社会から切り離されてプライベートでアナーキーな魅力に満ちており聴いていて単純にとても楽しい。テープならではの音質の経年変化もそういった魅力に一層拍車を掛ける。全てが繋がり共有される現代社会における小さなサンクチュアリ、少々大げさだがカセットテープの再発見にはそんなナイーブな錯視も関係しているだろう。
Babylon/MAGIC EYE 2014
エジンバラを拠点に活動するバンドのカセットテープ作品。レーベルはNotNotFunより。カセット自体は99本限定のため入手は難しいが、iTunes storeやsoundcloudで音源は視聴/購入できる。デカダンなメロディにローファイというより単に劣化した音質と濁った女性ボーカルがのり時代も国籍も不詳、ここまで胡散臭い音楽も珍しい。ドリーミーと呼ぶにはどうにも下世話で、スカムと呼ぶにはどうにもチャーミングな不思議な作品だ。
この作品が世界を善い方向に変えたり音楽的な革新をもたらすことは万に一も無いだろうが、道端で拾ったカセットを聴いてみたらこんなにも怪しい音楽が入っていたと想像するととても愉快だ。
カセットテープ作品におけるメンタリティをいち早く取り入れたこのアルバムも素晴らしい。
the Campfire headphase/boards of canada 2005
子供時代への情景をパッケージした1stからずっと、彼らはノスタルジアについて音楽を作ってきた。「ポップミュージックをカセットに録音してそのまま何年も放置したような音楽を目指した」と語るように、この作品においても視線は過去に向いている。プライベートな郷愁ではなく、世界をまるごと退行させたような危険なノスタルジア。M2の伸びきったテープに録音されたような掠れたギターフレーズと快楽的なビートの絡みが気に入るならきっと大切なアルバムになるだろう。
僕は必ず飛行機ではこのアルバムを聴いて眠る。この音楽が鳴っているのは僕以外には誰もいない世界だ。そこにはただ音楽と黄昏だけがある。僕に構うな。僕に話しかけるな。僕をほっといてくれ。